研究局 7月局内授業 協議会記録②

7月に行われた、研究局・局内授業の協議会の様子をご紹介します。

前回の記事とあわせてご覧ください。

〇指導・講評(南育子先生)

・前回、菅先生に話したことから考えて、自分なりの実践を出してくれるのがありがたい。自分が予期しなかったことに出会い、考え、新しい自分の考えが生まれるということは、子供たちとやっている図工と同じで、大事なことだと思う。

・今日の題材「光のカサナリウム」について

学習指導案に、自分の考えていること、題材について、材料について、今日の使ったものについて、それぞれ自分の考えがしっかりと書かれているので、これを読むと大体どういうことをしたいのかな、どういう考えを持っている人なのかなということが分かって、とてもいい。

 1次では、光と材料がつくる美しさを探る。面白さや美しさを探るというところは、低学年から始まって、造形遊びでも取り上げられているので、子供たちは、パッと取りかかると思う。でも高学年になると、この先の「よさや美しさ」、「面白さ」を価値付け、追求し深めるというところに辿り着けることがとても大事。

 高学年なので、自分の内側に問いかけ、自分なりの判断をしていくということが活動の中で行われる。これが思考だと思う。高学年になると各教科学習も進んでくるし、自分はこれが好きなんだという特性みたいなものや、自分を客観視する目も出てくるので、安心して自分に問いかけて、自分なりの判断をしていく状況をつくれるような、子供に響く問いの一手というのがあると、子供たちはそこで思考を始めていくと思う。

・光について

光というのは美しい、綺麗というようなことが、私たちの中には刷り込まれているけれども、光そのものが本当に綺麗かどうかというのは、もう一度考えた方がいい。今回、太陽の光は図工室で見る光よりも強いので、すごく光を感じることができた。光があることによって、中にあるものも、先に透かして見させるような力もあった。それで、自分がつくったものに、光が当たることによって変わって見える。光そのものが美しいというよりも、光がものに当たることによって、もの自体の見え方が変わることだった。その「光とものの関係」が、1次から最後まで貫く柱となっていた。

 子供に、実際に光に透かしてみて、発見したことを教えてと言った時に、自分のよさを発表してくれた子がいた。自分のものを自分でいいと価値付けたことも、周りの子が認めてくれる、先生も認めてくれる、また、友達がいいと言ったことによって、自分では気が付かなかったかもしれないけど、友達が気付いてくれるという、図工の環境がここにはある。この題材にそういう力があるということが、子供に伝わったう。それは、どの授業でもとても大事にしなくてはいけないことだし、図工の特性だと思う。自分が自分のまま勉強できる、自分が自分のまま感じ取ったことを表現することが認められるというのは、すごく嬉しいと思う。

・子供の見取りについて

 今日の子供たちの様子を振り返ると、他の教科では思考というと頭の中で操作することが取り上げられやすいが、それだけではなく、視覚と感触がすごくつながっているなと思った。感触で探るというのがすごく強い。だけど、イメージは持っていた。同じ波にしようと思っている人がいたとしても、私はこういうふうにしたいというイメージをもっている。だから、それに近づけるためにはどうしたらいいのかというのを、探ったり、問いかけたりして、何度も試行錯誤していた。それは、過程で見ないと、その子供のやろうとしていること、そこで子供が働かせている駆け引きみたいな力、微妙な、本当に繊細な違いみたいなものは分からないので、今この研究局がやろうとしている、子供を読み解くということがすごく大事になってくる。

・研究について

 研究は、先生が創造的になって題材開発をするというエネルギーと、子供を知ろうというエネルギーの両方が必要だと思う。いい題材であれば、子供はどんどん自分を見て見てと、自分を出してくる。では、いい題材をつくるにはどうしたらいいかとなると、やっぱり子供のことが分からないと、大人の次元の題材になっちゃうことが多い。子供を知りたいという先生がいるというのはとても子供にとって大事なことで、例えば今日も、作品だけ見て、あーだこーだ言ってしまうと、やっぱり子供のことは分かっていないと思う。その中で、実際子供はどういうことをしようとしているのか、そのために何に気付いて、そこからどう考えを持っているのか、これも思考。気付いた後の思考。発見より気付きの方がいいと思う。気付きの中には、その先があって、そこからまた思考が始まると思う。

 その辺の様子を、授業の中でキャッチする感性を先生がどれだけ持てるのかということ。それって、先生は大人になっちゃっているから、すごく難しい。でも何よりも、子供がやっていることは子供しかわからなくて、そこで、子供と共感できるということがすごく大事。その共感があると、子供は「やってみよう!先生は私のこと分かってくれている!」と思うから、もっと聞いてもらいたいし、もっと面白いことやって、もっと自分がやりたいことが伝わる表現の仕方を工夫しようというところにつながっていく。なので、事前では、今までの子供の経験をもとに題材をつくり、改善していく。授業では、実際の子供を見て、その子供のやっていること、気付いたことから、この子の中で一体何が起きているのだろうという姿勢で子供と付き合っていく。事後は、それを先生方で出し合って、自分が気付かなかったことを他の人から学ぶ。そういうことをサイクルにしながら、やっぱり最終的には授業中に子供を読み解けるように。さらに子供の中で、先生のあの言葉とこれがつながっているのだというところまで読みとりができると、研究が深まっていくと私は思う。

○菅野先生からの質問

 南先生が共感する際に意識していること、自分の中で決めていることなどはありますか?

○南先生からの回答

 私は基本的にあまり褒めない。褒めなくてもいいんだけど、子供を知りたいという思いはある。例えば、「すごく赤いんだけど、どういうことをしようとしているの?」と聞くと子供は教えてくれる。「あーそうなんだ、勉強になった。だからそうやって大きさとか考えてたんだね」という感じで対話する。グラデーションを綺麗ねと褒める人もいるかもしれない。でも私は褒めない。「色がだんだん変わるようにしているんだね。なんで、変わるようにしているの?」と聞くと、「実はこうでこういう意味があるから薄い色からだんだん濃い色にしているんだ〜」と答えてくれる。そうするとそういうことを知れた、となる。それが共感だと思う。子供が表現しているよさがあると思うので、それを一生懸命学びたいという感じ。


○清水先生からの質問

 子供の見取りについて、今の墨田区、これまでの墨田区で、どのように分析をされていたのか、教えてください。

○南先生からの回答

 清水さんが墨田にいた10年程前。その後は、自分が読み取ったこと、そこで何が起きていたのか、こことここがつながってこうなったのではないかということを、文章にしてもらって意見を交換していた。この人はこう見ているけど、あの人はこう見ている、でもこの人が見ていない時に、こういうことが起こっていた…というところでも繋がることができる。顔を合わせて話をすると、それぞれの先生の成長にもつながる。先生が育つと、題材も育つ。子供と生の授業でどう付き合っていくかということが一番大事。子供がわかると、自分のことをどんどん出してくるので。東京都の図工の先生が子供のことをよく見る力を備えているというのは、図工を超えて、学校にもいい影響が出てくると思う。子供を見る力、知る力、知りたいという気持ちを自分の中にいっぱいにしていくということができたらいいと思う。


○金垣先生からの質問

 授業で題名をつけるか必要があるのかどうかが話題になった。子供たちって言葉にしなくちゃいけない、題名をつけなきゃいけないとなった時に、表面的な題名をつけることもある。言葉にしてもらわないと、こちらも読み取れないこともあるため、どのように子供の思いを見取っていくといいでしょうか。

○南先生からの回答

 今日の題材では、色々試して探っていた部分が大きいが、自分で感じ取った、または見つけた美しさは、最後に伝えたいよね、みんなも知りたいよね、ということを最初に言っておく。本当に伝えたい美しさを探ってほしいというか、面白さを探ってほしい。そこには、形やできたものでは、示しきれないものって結構いっぱいあると思う。本当にざぶーんと勢いのある波をつくりたいって言っている子が外にいた。それを表現するために、すごく考えていた。これを伝えたいんだという思いがあれば、そこを子供は伝えたい中身として言葉にしてくると思う。それが、一言では、言葉にできなかったら、別に文章でも構わない。もしくは、言葉が短くてよくわからない時は、先生が聞き取ってもいいのかなと思う。さっきああいうふうにやっていたけど、そこの部分は、みんなにとっても聞きたい部分だし、あなたにとっても伝えたい部分じゃないかなということで、もう少し詳しく教えてと言って聞き取ってもいい。そこで、「どんな工夫したの?」と聞くと、話し出すと思う。今言ったことをこの紙に書いておいてと言うと、一回口に出していているので、書けると思う。鑑賞が大事。聞きたいと思って聞くと、子供は教えてくれる。


☆都図研理事長 鶴内先生より

 南先生から学ぶべきことがいっぱい出てきたと思うので、これからも生かしていってほしい。教科提案部からも色々な意見が出たと思うので、お互いの図工感をぶつけ合っていければと思う。


☆教科提案部 田中先生より

 今年度は研究局と教科提案部と連携を、ということで、今回局内授業に参加させていただいた。授業をもとに、そして子供の姿を目の前にして研究や研修をしていくというところは同じだが、研究局と教科提案部では切り口が違い、こうやって意見を交わすことで、私たちも気付くことがあったので、今日は本当に教科提案部全員来させたかったぐらいの内容だったと思う。今後も、教科提案部の1月の発表に来ていただくなど、できるだけ連携をとって、お互いにとっていい時間にしたい。


〇謝辞(小金井市立第四小学校:河野)

 今年度、局長が変わって大きく研究内容を整理し直しているところからスタートだった。ここ数年やれていなかった、1学期の局内研究授業ができて、いろんな提案もできたのではないか。子供たちを見ていても、こちらもすごく楽しめる授業になっていた。南先生に教わったことも踏まえて、また研究に生かしていけるようにしていきたい。

 教科提案部の田中先生からもあったが、考え方の違う人同士で、研究を深めていくというのも貴重な機会だと思う。この1年のスタートに、このような形でできたことも、令和5年度のよいスタートになったと思う。南先生にも貴重なご指導をいただいた。挑戦してくれた菅先生にもありがとうございますと言いたい。 

東京都図画工作研究会

TOKYO ZUKO EDUCATION