第58回東京都図画工作研究大会 南多摩大会レポート
第58回東京都図画工作研究大会(南多摩大会)が、2019年12月13日に、稲城市立城山小学校で開催された。南多摩ブロック5市158校の中で、小学校が12校と規模の小さい稲城市では初の開催。また都図研大会58回の歴史で、初めて多摩図研が研究授業を行う歴史的な大会となった。
八王子市、町田市、日野市、多摩市、稲城市、都図研研究局、そして多摩図研研究部の7分科会11授業が行われた。
かんじる分科会1
2年生「こなこな とろとろ どうかこう?」
授業者 村上美羽(八王子市立横川小学校)
作品主義や教師主導ではなく子供それぞれの「かんじる」を大切にしたいという思いで研究を進めてきたという。子供が粉絵の具と洗濯糊を指で混ぜ、いろいろ試しながら、色や表したいことを見付け、絵に表していく、事前授業を重ね検討してきたことが分かる活動だった。子供たちは、粉絵の具の色や紙を選び、洗濯糊と混ぜたり上から振りかけたりと、様々なことを試していた。
協議会では、試す中から自分が表したいことを見付け表現につなぐことの難しさ、また材料・用具の選定や授業者の言葉かけ等について質問・意見が出た。講師の雨宮玄先生(あきる野市立東秋留小学校 指導教諭)からは、授業を振り返りながら、共有タイムの大切さや言葉の吟味等について具体的なご指導をいただいた。
取材担当:宮川 幸子(豊島区・高松小)
かんじる分科会2
6年生「手のひらに世界」
授業者 奥田水尾(八王子市立美山小学校)
手ごたえを感じることを目指し、木彫風粘土を用いて「削る」という行為をテーマとした。「触ってみたくなる形」という投げかけから、児童は削ると触るを繰り返して形を発想した。2回の相互鑑賞で、友達の作品も触りなら感じていた。児童からは、同じような形でも人によって手触りが違うことや、元の形が想像できないこと等、多様性や変化に対する手応えを感じる言葉が出た。
講師の横内克之先生(東京学芸大学非常勤講師)から、行為の中に鑑賞がある、表現と鑑賞が一体になった授業で、さらに相互鑑賞で周りと関わり見方が広がったと講評をいただいた。子供の意識の流れ(集約=材料提示、制作、振り返り等と、拡散=道具提示、鑑賞等)を教師がコントロールして学びを深めることをご教示いただいた。
取材担当:伊藤知佳(豊島・南池袋小)
かんじる分科会3
4年生「すかしてつないで わくわくワールド」
授業者:有馬 楓(八王子市片倉台小)
広々とした明るい昇降口にずらりと並ぶ養生シートや透明ポリシート。天井からもビニールテープが束になって吊ってある。それだけでどんなことがはじまるのかわくわくする。材料は色味が抑えられた様々な透過性の素材で子供たちが透明感や光の反射を味わえるように工夫されている。
活動が始まると子供たちはあっという間に空間ごと材料にまみれ、ビニールで空間を縦横無尽に飾ったり、切ったり結んだり、夢中になって材料に触れていた。
協議会では、空間を生かす場の設定の仕方や安全管理について議論があり、講師の鈴木陽子先生(目黒区立五本木小学校 指導教諭)からは、子供が形や色を手掛かりにしやすいような投げかけをすることによって可能性が広がる題材であるとお話しいただいた。
取材担当:橋本 友実(狛江市立和泉小)
むちゅう分科会
1年生「つんでならべて 森のおくりもの」
授業者:横山由紀子(日野市立旭ヶ丘小)
T2穴澤智子(日野市立日野第五小) T3大森はるか(日野市立夢ケ丘小) T4清水谷宏美(日野市立日野第八小)
会場の体育館には、1年生の子供たちが見たことのない大量の木材が並べられたり、積まれたりしていた。皮付きの丸太や、加工された建材の木っ端、木箱や角椅子などの木製品。色、形、大きさ、質感の異なる多様な材料に囲まれ、子供たちは目を輝かせ、手を伸ばし、次々に材料を積み重ね、活動に没頭した。この大量の材料のことを、お揃い衣装の4名の先生方は「森のおくりもの」と呼んで、大切そうに子供たちに手渡す。規格品ではない材料がもたらす、思いがけない出会いや組み合わせの中で、子供たちは終始「夢中」に活動した。
協議会では、「夢中」は学びに向かう原動力。学びの芽生える土壌を培いたいという分科会の提案を受け、講師の柴崎 裕先生(聖学院大学 特任教授)からは、「夢中」や「遊び」は、私と世界の接点であり、私の在り処だ。しかし、夢中な時、子供は孤独でもある。その夢中に手を差し伸べる先生の存在は、子供たちにとって大きい存在であるとお話しいただいた。
取材担当:渡辺裕樹(昭島市立つつじが丘小)
ふかめる分科会
5年生「小さなお友達と」
授業者 梅野淳子(稲城市立平尾小)
ケント紙でできた小さなお友達を、ものや場所と組み合わせる活動を通して、見慣れたものや場所が素敵に変化して見える感性と創造力を養うという授業提案である。 子供たちは、小さなお友達を冒険させることを夢中で楽しんだり、クラスの友達の見方や感じ方に共感したり、自他の活動の面白さを感じ取ったりしながら、学びを深めていた。
協議会では、分科会が何度も検討を重ね、本時に至った過程を知ることができた。講師の辻 政博先生(帝京大学教育学部 教授)からは、図工は子供たちの経験を認められる重要な教科である。形や色やイメージを媒介として、どのように子供たちの学びを開くことができるのか、継続的に探求していく必要があることを伺った。
取材担当:山口秋音(練馬区立大泉第四小)
かさなる分科会
2年生「それいけ! ねんどさん」
授業者:藤井真紀(多摩市立南鶴牧小)
大きな油粘土の固まりのある低い机の横に向かい合って座った2年生の子供たちは、まず固まりから粘土をひねり出して、『ねんどさん』をつくった。その『ねんどさん』と楽しく冒険する世界をつくろうと先生が伝えると、友達同士で自然と話し合いながら、活動が広がっていった。体重をかけて、手のひらで伸ばすと道のようになったり、伸ばした粘土を立ち上げると大きなお城のようになったりした。最後には、自分がつくったものを共有し合った後、つくった『ねんどさん』で冒険の世界で遊んだ。
協議会では、「かさなる授業」とはどんなものなのかに視点をおいて、話し合いが行われた。講師の大杉 健先生(武蔵野大学 特任准教授)からは、「小学生のうちから様々な経験を積ませることが重要。大学に入ってから初めて挫折を味わってしまうと立ち直るのが大変になってしまう。」とお話いただいた。
取材担当:平塚 香織(大田区立大森第一小)
ひらめき分科会
3年生「あしうらッチーみつけ隊」
授業者:小林龍馬(町田市立三輪小)
5年生「おと・いろ・かたち」
授業者:酒井陽子(町田市立鶴川第一小)
「ひらめきとは、豊かな体験や材料から感じたことと、子供の中の経験や知識が結び付き、『いいこと思い付いた!』と新しい造形的な見方や考え方が生まれること」と捉え研究を進めてきた。ひらめきにつながるように、身体感覚を通した目には見えない感触や音から題材設定を行った。
講師の石賀 直之先生(東京造形大学 教授)は、「この大会を成功させることを目標にするのではなく、子供が学習するとはどういうことかという視点をもち続け、研究を進めてきたところが素晴らしい。図画工作では、造形的なものを通して私と世界をつなげていく。ひらめきのプロセスとは、インプットとアウトプットの間に何が起こるかということだ。感じたことを形と色で表すだけではダメで、好きか嫌いか、思いをもたせる工夫をすることが大切だ」とお話いただいた。
取材担当:伊野加菜子(台東区立忍岡小)
多摩図研研究部 分科会
6年生「土であらわす」
授業者:江川 雄一(府中市立府中第九小)
研究テーマ「わたしがであう わたしがかかわる ~主体的な学びを育てる出会いと関わりの工夫」に迫るために、学校の土でどんなことができるか、活動を通してその良さを体感した児童が、ゲストティーチャーの淺井裕介氏に出会い、関わり合う中で、土を使って学校の床や壁や階段に自分なりの表現で描く活動が展開された。
協議会では、グループ協議がなされた後、講師の菅沼晶子先生(元多摩図研会長)から、ゲストティーチャーと授業者の関わり方について、材料の手渡し方の重要性について、さらに、児童の学びを受け止め次の授業でそれを返していくこと、研究したことを自分の授業に生かしていくことの重要性などを、授業と絡めてお話いただいた。
取材担当:齋藤 貴子(荒川区立第二峡田小学校)
*都図研研究局の研究授業については、研究局ページよりご覧ください。
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